四兄弟神の星 16
四兄弟神の星 16
第二章 チェレン、獣人の岩屋を脱出する 10
その時、林の中から何かが勢いよく飛出して来ると、太い棒が大口を開いた頭に打落された。
ラガーに乗ったトロだ、とオモンはすぐ気付いた。
オモンの横で巻き取られていたチェレンが、この時、オーともワアーともつかない叫びを上げるとナイフを振りかざして、自分に巻き付く胴の皮をぐざぐざと左右に切り離した。
三人と立木を巻いたその長い物はそれで精一杯で、新たな攻撃には大きな牙のある口だけだが、頭はトロの最初の一撃にやられていた。
トロはラガーから下りて頭や胴を打ち続ける。
チェレンはナイフで自分を解放すると、オモンに巻き付いている胴を切り始める。
そいつは頭をやられ胴を切り離されても、猶、獲物を海に引き摺り込もうとしていた。
立木に巻き付いていた尾は、この時動かない立木を離して、ララだけ連れて動き出した。
チェレンは慌てて追い掛けた。
オモンはチェレンのナイフで裂け目の出来た皮に指を掛け、力一杯引裂いて、自由になった。
チェレンはララに追付いて、そいつの胴にナイフを突き立てる。
トロとオモンも直に駆けつけ、残りの胴をやたらと殴りつけた。
そのお陰でそいつの他の胴が飛んでチェレンに再び巻きつくのを防ぐ事が出来た。
ララに巻き付いた胴を切り離すと、バラバラになったその各部分はそれぞれ動き始め、全て海に戻って行った。
ただ頭だけがなかった。
振返ると、ターナが両手に抱え込んで、切り口からついばんでいるのだった。
トロがララを助け起こした。
ララは一度目が覚めたものの、状況に気付いて気絶したらしい。
「よく間に合ってくれたね」
オモンはトロに言った。
「寝場所に適当な所がなくてうろうろしていたら、火が見えた。
すぐ着くような気がして駆けたのだが、随分あった」
突然チェレンが大声で笑い出した。
トロとオモンは何事かと、振返った。
チェレンは思いっきり笑いながら、
「いや、あの海竜がラガーと立木を間違えて、引いて行こうと苦労していたのを思い出したら、おかしくって」
「?」
気を失ったままのララを抱えて不審顔の二人を前にチェレンは、朗らかに笑い続けた。
第二章 了
第二章 チェレン、獣人の岩屋を脱出する 10
その時、林の中から何かが勢いよく飛出して来ると、太い棒が大口を開いた頭に打落された。
ラガーに乗ったトロだ、とオモンはすぐ気付いた。
オモンの横で巻き取られていたチェレンが、この時、オーともワアーともつかない叫びを上げるとナイフを振りかざして、自分に巻き付く胴の皮をぐざぐざと左右に切り離した。
三人と立木を巻いたその長い物はそれで精一杯で、新たな攻撃には大きな牙のある口だけだが、頭はトロの最初の一撃にやられていた。
トロはラガーから下りて頭や胴を打ち続ける。
チェレンはナイフで自分を解放すると、オモンに巻き付いている胴を切り始める。
そいつは頭をやられ胴を切り離されても、猶、獲物を海に引き摺り込もうとしていた。
立木に巻き付いていた尾は、この時動かない立木を離して、ララだけ連れて動き出した。
チェレンは慌てて追い掛けた。
オモンはチェレンのナイフで裂け目の出来た皮に指を掛け、力一杯引裂いて、自由になった。
チェレンはララに追付いて、そいつの胴にナイフを突き立てる。
トロとオモンも直に駆けつけ、残りの胴をやたらと殴りつけた。
そのお陰でそいつの他の胴が飛んでチェレンに再び巻きつくのを防ぐ事が出来た。
ララに巻き付いた胴を切り離すと、バラバラになったその各部分はそれぞれ動き始め、全て海に戻って行った。
ただ頭だけがなかった。
振返ると、ターナが両手に抱え込んで、切り口からついばんでいるのだった。
トロがララを助け起こした。
ララは一度目が覚めたものの、状況に気付いて気絶したらしい。
「よく間に合ってくれたね」
オモンはトロに言った。
「寝場所に適当な所がなくてうろうろしていたら、火が見えた。
すぐ着くような気がして駆けたのだが、随分あった」
突然チェレンが大声で笑い出した。
トロとオモンは何事かと、振返った。
チェレンは思いっきり笑いながら、
「いや、あの海竜がラガーと立木を間違えて、引いて行こうと苦労していたのを思い出したら、おかしくって」
「?」
気を失ったままのララを抱えて不審顔の二人を前にチェレンは、朗らかに笑い続けた。
第二章 了
四兄弟神の星 15
四兄弟神の星 15
第二章 チェレン獣人の岩屋を脱出する
それからは、オモンは出来るだけ高みに夜営し大きな火を焚いた。
獣人が追って来ないのなら、トロと連絡を取りたい。
しかしトロの夜営の火もまだ見えない。
そこは高い海崖の上の林の中で、遠くまで森を見晴せた。
今夜はここに夜営する事にした。
チェレンは崖の下を覗き込んだ。
「もっと、森に下りた方がいい」
「今夜あたり、トロと連絡が取れるような気がする。
高い場所に居たい。
森から遠いから安全だと思うが」
「この下は深い淵だ。
こういう場所には蛇に似た海竜が潜む。
舟で通ると長い胴で舟ごと巻き付かれ、海の底に持って行かれる。
このぐらいの崖を這い登るのは平気だ」
どちらが安全とも決められない。
が、心持ち森に下がる事にした。
木にラガーを繋ぎ、大きな火を焚く。
先にチェレンとララが眠った。
夜が更けて来ると、オモンは眠くて堪らなくなった。
”しかし、こいつはづっと歩き詰めで狩をしたり、矢の材料を集めていた。
俺より疲れているに違いない。
あまり早く替れと言うのは俺の沽券に関わる”
ラガーが頭を上げて、辺りを見回した。
どこかで微かな音!
かさかさ、
ざわざわ。
はっとして目を凝らした時、海の方で何か高い物が星空に立上がった。
「海竜だ!」
棍棒を握り締め、チェレンに手を掛けた。
「チェレン、起きろ!」
その長い物はぐううっと空に伸びた。
「チェレン、ララ!」
チェレンを無理に引き起こした時、その長い物は倒れるように、襲ってきた。
逃げる暇も、棍棒を振るう間もなかった。
あっと言う間にオモンとチェレンの身体は、人の身体ぐらい太く途方もなく長い物に巻き付かれてしまった。
ざわざわと尾が地を滑って行き、ララを掬い上げ、更に、ララの身体を宙に浮かせたまま、くねくねとラガーに向った。
ラガーは逃げようともがいて、繋がれた立木をぐるぐる廻っていた。
長い胴はラガーを追って、その立木にしっかりと巻き付いた。
オモンは棍棒を握り締めてはいるものの、腕を巻き取られ、どうする事もできない。
チェレンは頭を振って、目を覚まそうとする風だった。
”化け物の餌食になるなら、眠ったままの方がいい”
そいつの頭は牙のある大きな口と、形だけの目が一つ付いているが、殆ど見えないらしかった。
頭を伸して、ラガーを捕まえているつもりの胴の方を見たが、よく理解できなかったらしい。
そのままずるずると海の方に戻り始めた。
オモンは足を踏ん張った。
思い通りにならない事に腹を立てて、頭が引返して来て、がー、と大きな口を開いた。
思わず足を踏み滑らせて、ずるずるずる。
またもや、がくっと引止められる。
そいつは立木を引いて行こうというのである。
再び怒りの大息をついた口が開き、その木に向った。
第二章 チェレン獣人の岩屋を脱出する
それからは、オモンは出来るだけ高みに夜営し大きな火を焚いた。
獣人が追って来ないのなら、トロと連絡を取りたい。
しかしトロの夜営の火もまだ見えない。
そこは高い海崖の上の林の中で、遠くまで森を見晴せた。
今夜はここに夜営する事にした。
チェレンは崖の下を覗き込んだ。
「もっと、森に下りた方がいい」
「今夜あたり、トロと連絡が取れるような気がする。
高い場所に居たい。
森から遠いから安全だと思うが」
「この下は深い淵だ。
こういう場所には蛇に似た海竜が潜む。
舟で通ると長い胴で舟ごと巻き付かれ、海の底に持って行かれる。
このぐらいの崖を這い登るのは平気だ」
どちらが安全とも決められない。
が、心持ち森に下がる事にした。
木にラガーを繋ぎ、大きな火を焚く。
先にチェレンとララが眠った。
夜が更けて来ると、オモンは眠くて堪らなくなった。
”しかし、こいつはづっと歩き詰めで狩をしたり、矢の材料を集めていた。
俺より疲れているに違いない。
あまり早く替れと言うのは俺の沽券に関わる”
ラガーが頭を上げて、辺りを見回した。
どこかで微かな音!
かさかさ、
ざわざわ。
はっとして目を凝らした時、海の方で何か高い物が星空に立上がった。
「海竜だ!」
棍棒を握り締め、チェレンに手を掛けた。
「チェレン、起きろ!」
その長い物はぐううっと空に伸びた。
「チェレン、ララ!」
チェレンを無理に引き起こした時、その長い物は倒れるように、襲ってきた。
逃げる暇も、棍棒を振るう間もなかった。
あっと言う間にオモンとチェレンの身体は、人の身体ぐらい太く途方もなく長い物に巻き付かれてしまった。
ざわざわと尾が地を滑って行き、ララを掬い上げ、更に、ララの身体を宙に浮かせたまま、くねくねとラガーに向った。
ラガーは逃げようともがいて、繋がれた立木をぐるぐる廻っていた。
長い胴はラガーを追って、その立木にしっかりと巻き付いた。
オモンは棍棒を握り締めてはいるものの、腕を巻き取られ、どうする事もできない。
チェレンは頭を振って、目を覚まそうとする風だった。
”化け物の餌食になるなら、眠ったままの方がいい”
そいつの頭は牙のある大きな口と、形だけの目が一つ付いているが、殆ど見えないらしかった。
頭を伸して、ラガーを捕まえているつもりの胴の方を見たが、よく理解できなかったらしい。
そのままずるずると海の方に戻り始めた。
オモンは足を踏ん張った。
思い通りにならない事に腹を立てて、頭が引返して来て、がー、と大きな口を開いた。
思わず足を踏み滑らせて、ずるずるずる。
またもや、がくっと引止められる。
そいつは立木を引いて行こうというのである。
再び怒りの大息をついた口が開き、その木に向った。
四兄弟神の星 14
四兄弟神の星 14
第二章 チェレン獣人の岩屋を脱出する 8
夜営の時、チェレンは枝の代りに大きな木の実を幾つも抱えて戻って来た。
「どうして、今の間に木の実を集めておかないのだ。
早くしないと小動物にすっかり食べられてしまう」
チェレンは火を熾しながら言った。
ララは楽しそうに小さなナイフで木の実を割っている。
食事が済むとチェレンはまた言った。
「君達は先に眠って、夜中には火の番をしてくれ。
獣が来るといけないから。
私は矢を削って暫く起きている」
ララは直に横になった。
チェレンは昼間集めておいた枝をナイフで削り始めた。
オモンは話し掛けた。
「獣人は追って来ないだろうか?」
「クスシの足は早いが長くは走れない。
草原を越えるのに三日かかる。
もしキコが私達の逃げた方向を教えてもね。
他の連中は精々私が南に捜しに行ったと思っている。
誰も何も言わなければ、クスシは、私達は、他の者達と同じ様に西に行ったと思うだろう。
今まで逃げた者は皆、故郷の西の街を目指したから」
チェレンは下を向いて小枝を削りながら言った。
細く真っ直ぐにし、先を鋭く尖らせる。
基は平たくする。
鏃(やじり)や矢羽根はつけない。
「キコはあの連中を逃す事をすっかり諦めている。
無気力なのだ。
自分で諦めているから努力して抜け出そうとしない。
希望があるとすれば、混血児は星人より寿命が短い。
奴が死ぬか?
自分が喰い殺されるか?
だ。最後にキコと私が残るに違いない。
そうなれば、海の流れを利用して東に逃げようと、話していた。
二人なら、この東の森でもなんとか生きて行けるだろう。
あの時、クスシはあんたを殺せと、言った。
私は外した。
クスシはかんかんに怒ったが、キコは、捕えておけば何時でも食べられる、今日は獲物があるではないかと、クスシに教えた。
紳士らしく振舞う事さえ教えた。
そうしておいて、彼は一度助けた事のあるララを獣人の牙から逃す方法を考えた。
ララは素直で優しいだけではなく、賢い子だ。
キコはずっとあんたを観察していた。
それでも、一人では東の森では生きて行けない。
私にも一緒に行くように言った。
そうすると、後に残ったキコは一人だ。
最後になっても最早逃げ出す事は出来ない」
チェレンはふっと顔を上げた。
驚くほど暗い悲し気な目があった。
彼は直にまた俯いて、作業を続けた。
「それだけじゃない。
私がいなくなれば、狩の獲物はクスシ一人ではどうにもならない。
他の連中の最後の時も早くなる。
私はもう寝るよ。
君は眠たくなれば、ララと代って貰えばいい。
ララはずっとラガーに乗っていた」
オモンがはっと思うまもなくチェレンは横になり、もう眠っている。
”奴が矢を作っている間に私は眠るべきだったのだ”
チェレンの傍らには、矢が山のように積まれている。
夜の三分の一は過ぎてしまっていた。
第二章 チェレン獣人の岩屋を脱出する 8
夜営の時、チェレンは枝の代りに大きな木の実を幾つも抱えて戻って来た。
「どうして、今の間に木の実を集めておかないのだ。
早くしないと小動物にすっかり食べられてしまう」
チェレンは火を熾しながら言った。
ララは楽しそうに小さなナイフで木の実を割っている。
食事が済むとチェレンはまた言った。
「君達は先に眠って、夜中には火の番をしてくれ。
獣が来るといけないから。
私は矢を削って暫く起きている」
ララは直に横になった。
チェレンは昼間集めておいた枝をナイフで削り始めた。
オモンは話し掛けた。
「獣人は追って来ないだろうか?」
「クスシの足は早いが長くは走れない。
草原を越えるのに三日かかる。
もしキコが私達の逃げた方向を教えてもね。
他の連中は精々私が南に捜しに行ったと思っている。
誰も何も言わなければ、クスシは、私達は、他の者達と同じ様に西に行ったと思うだろう。
今まで逃げた者は皆、故郷の西の街を目指したから」
チェレンは下を向いて小枝を削りながら言った。
細く真っ直ぐにし、先を鋭く尖らせる。
基は平たくする。
鏃(やじり)や矢羽根はつけない。
「キコはあの連中を逃す事をすっかり諦めている。
無気力なのだ。
自分で諦めているから努力して抜け出そうとしない。
希望があるとすれば、混血児は星人より寿命が短い。
奴が死ぬか?
自分が喰い殺されるか?
だ。最後にキコと私が残るに違いない。
そうなれば、海の流れを利用して東に逃げようと、話していた。
二人なら、この東の森でもなんとか生きて行けるだろう。
あの時、クスシはあんたを殺せと、言った。
私は外した。
クスシはかんかんに怒ったが、キコは、捕えておけば何時でも食べられる、今日は獲物があるではないかと、クスシに教えた。
紳士らしく振舞う事さえ教えた。
そうしておいて、彼は一度助けた事のあるララを獣人の牙から逃す方法を考えた。
ララは素直で優しいだけではなく、賢い子だ。
キコはずっとあんたを観察していた。
それでも、一人では東の森では生きて行けない。
私にも一緒に行くように言った。
そうすると、後に残ったキコは一人だ。
最後になっても最早逃げ出す事は出来ない」
チェレンはふっと顔を上げた。
驚くほど暗い悲し気な目があった。
彼は直にまた俯いて、作業を続けた。
「それだけじゃない。
私がいなくなれば、狩の獲物はクスシ一人ではどうにもならない。
他の連中の最後の時も早くなる。
私はもう寝るよ。
君は眠たくなれば、ララと代って貰えばいい。
ララはずっとラガーに乗っていた」
オモンがはっと思うまもなくチェレンは横になり、もう眠っている。
”奴が矢を作っている間に私は眠るべきだったのだ”
チェレンの傍らには、矢が山のように積まれている。
夜の三分の一は過ぎてしまっていた。
四兄弟神の星 13
四兄弟神の星 13
第二章 チェレン獣人の岩屋を脱出する 7
夜が明けてもチェレンは中々起きそうになかった。
「チェレン、チェレン」
ララは優しく囁くように、チェレンを起こす。
「そんな事ではこいつは起きない。
君は彼と行きたいのなら、そうするがいい。
私は約束がある。先に行く」
「お願い、少し待って……
チェレン! チェレン!」
やっと起きたチェレンは満足そうに大きく伸びをした。
「一体、何処に行くって、騒いでいたのだい?」
「私はこの東の方で友達と会う約束がある。
ララは、彼女に頼まれたので、ここまで一緒に来た。
しかし、君がララを守ってやれるなら、私は先を急ぐ事が出来る」
「それはどちらも不可能だ。
君は友達に会う前に獣の餌食だ。
私もこの森では一人でララを守る事は出来ない。
ここは恐ろしい所なのだよ」
チェレンは起ち上がりながら言った。さり気なく、弓と矢を左手に握っている。
「私達二人でも危険なぐらいだ。
その友達に会いに行くのなら、三人一緒に行かないといけない」
オモンは昨夜の危なかった事を思い出した。
チェレンの言う通りに違いない。
人数は多い方がいい。
但し、信頼できるならばだ。
チェレンはそう言いながらも、相変らず暗い目で、遠くを見ている。
「君が私と一緒に来るのなら言う事はない。
直に出発する」
チェレンはぶつぶつ言った。
どうも朝食もしないで……とか言っているようだが、オモンは無視した。
さっさと東の方を目指して歩き始めると、二人共黙って付いて来た。
”!”
気が付くと付いて来るのは、ララ一人だった。
「あいつは?」
「森に下りて行った」
”勝手にさせておこう”
しばらくして、右手の方から呼ぶ声が聞えた。
「チェレンが呼んでいる」
ララはその方に行きたそうだ。
オモンは腹が減っているのも手伝って、腹が立った。
「チェレンが呼んでる。行かなくては」
”あんた、一人で行けよ”と言いたいのを堪えて、呼ぶ方に進路を替えた。
「本当に何も喰わずに、行くつもりだったのか?」
森の外れでチェレンは待っていた。
足元に小さな大人しい動物のまだ暖かい死骸が転がっている。
「火を熾そう。
腹が減っては急ぎたくても急げない」
腹は減っているが、オモンには意地を張る気はない。
黙ってチェレンが器用に火を作るのを眺めていた。
腹がくちくなると、オモンの気持も和らいだ。
「あの草原だけでも歩いて三日かかると思うが、どのようにして来たのだ?」
「草原なぞ越えない」
チェレンはにっこり笑った。
笑うと明るい瞳だ。
「あれから三日たった。
君達に追付いた日、海の水は西に流れていた。
次の日は北、そして東に、四日目には南向きだ。
海の流れはどんな動物よりも早い」
”!”
「一本の流木があれば充分。
で、すぐに出発するかい?
しないのなら私は矢を削りたい。
これから先いくらあっても足らないから」
「すぐ出発する。
日のある間に進みたい」
チェレンはがっかりしたように立ち上がった。
その辺り、森と岩山の境になり森程木は密生しておらず、岩山程険しくもなく歩き易い事がわかった。
ララをラガーに乗せ、オモンは進んだ。
気が付くと、またチェレンが居ない。
”今度は何をしに行ったのだ?”
森の奥からは様々の声が聞える。
獣の唸り、
枝の折れる音、
小動物の悲鳴、
鳥の羽音。
重なり合い互に呼応し合うかのように、また全く無関係のように。
岩山の上も静かではない。
小石の岩に当る音、
重い物を引き摺る音、
虫が囁くような声、
風が笑うような音。
ララは森の方を見ている。
オモンは構わず進み続けた。
幾度かチェレンは追付いて来た。
その度に木の枝を数本抱えている。
それをララに渡すと、また森に駆けて行く。
ララはその枝を大事そうに抱いていた。
第二章 チェレン獣人の岩屋を脱出する 7
夜が明けてもチェレンは中々起きそうになかった。
「チェレン、チェレン」
ララは優しく囁くように、チェレンを起こす。
「そんな事ではこいつは起きない。
君は彼と行きたいのなら、そうするがいい。
私は約束がある。先に行く」
「お願い、少し待って……
チェレン! チェレン!」
やっと起きたチェレンは満足そうに大きく伸びをした。
「一体、何処に行くって、騒いでいたのだい?」
「私はこの東の方で友達と会う約束がある。
ララは、彼女に頼まれたので、ここまで一緒に来た。
しかし、君がララを守ってやれるなら、私は先を急ぐ事が出来る」
「それはどちらも不可能だ。
君は友達に会う前に獣の餌食だ。
私もこの森では一人でララを守る事は出来ない。
ここは恐ろしい所なのだよ」
チェレンは起ち上がりながら言った。さり気なく、弓と矢を左手に握っている。
「私達二人でも危険なぐらいだ。
その友達に会いに行くのなら、三人一緒に行かないといけない」
オモンは昨夜の危なかった事を思い出した。
チェレンの言う通りに違いない。
人数は多い方がいい。
但し、信頼できるならばだ。
チェレンはそう言いながらも、相変らず暗い目で、遠くを見ている。
「君が私と一緒に来るのなら言う事はない。
直に出発する」
チェレンはぶつぶつ言った。
どうも朝食もしないで……とか言っているようだが、オモンは無視した。
さっさと東の方を目指して歩き始めると、二人共黙って付いて来た。
”!”
気が付くと付いて来るのは、ララ一人だった。
「あいつは?」
「森に下りて行った」
”勝手にさせておこう”
しばらくして、右手の方から呼ぶ声が聞えた。
「チェレンが呼んでいる」
ララはその方に行きたそうだ。
オモンは腹が減っているのも手伝って、腹が立った。
「チェレンが呼んでる。行かなくては」
”あんた、一人で行けよ”と言いたいのを堪えて、呼ぶ方に進路を替えた。
「本当に何も喰わずに、行くつもりだったのか?」
森の外れでチェレンは待っていた。
足元に小さな大人しい動物のまだ暖かい死骸が転がっている。
「火を熾そう。
腹が減っては急ぎたくても急げない」
腹は減っているが、オモンには意地を張る気はない。
黙ってチェレンが器用に火を作るのを眺めていた。
腹がくちくなると、オモンの気持も和らいだ。
「あの草原だけでも歩いて三日かかると思うが、どのようにして来たのだ?」
「草原なぞ越えない」
チェレンはにっこり笑った。
笑うと明るい瞳だ。
「あれから三日たった。
君達に追付いた日、海の水は西に流れていた。
次の日は北、そして東に、四日目には南向きだ。
海の流れはどんな動物よりも早い」
”!”
「一本の流木があれば充分。
で、すぐに出発するかい?
しないのなら私は矢を削りたい。
これから先いくらあっても足らないから」
「すぐ出発する。
日のある間に進みたい」
チェレンはがっかりしたように立ち上がった。
その辺り、森と岩山の境になり森程木は密生しておらず、岩山程険しくもなく歩き易い事がわかった。
ララをラガーに乗せ、オモンは進んだ。
気が付くと、またチェレンが居ない。
”今度は何をしに行ったのだ?”
森の奥からは様々の声が聞える。
獣の唸り、
枝の折れる音、
小動物の悲鳴、
鳥の羽音。
重なり合い互に呼応し合うかのように、また全く無関係のように。
岩山の上も静かではない。
小石の岩に当る音、
重い物を引き摺る音、
虫が囁くような声、
風が笑うような音。
ララは森の方を見ている。
オモンは構わず進み続けた。
幾度かチェレンは追付いて来た。
その度に木の枝を数本抱えている。
それをララに渡すと、また森に駆けて行く。
ララはその枝を大事そうに抱いていた。
四兄弟神の星 12
四兄弟神の星 12
第二章 チェレン獣人の岩屋を脱出する 6
翌朝、二人はラガーを引いて南に見える森に向って岩山を下り、東に向った。
岩場も森の中も進み難く、常にララに手を貸してやらなければならなかった。草原育ちのラガーもオモンを煩わせる。
食べ物は木の実や小動物が充分得られた。
「こちらの方が充分食べる物がある。君の仲間はなぜ、こちらに住もうとしないのだ?」
「東の森はクスシでも危険だと、キコが言っていた」
「それで、君は怖がっているのか?」
「私は怖くない。怖がっていない」
オモンは黙ってララの言葉を認める事にした。
日が傾きかけると、オモンは夜営の場所が気になった。
”岩山が安全か?森の中か?”
森の中はもう暗い。
獣の声が夕闇の迫るにつれ、多く大きくなる。
岩山にはまだ日が当っているので、安全であるように思えた。
昨夜のようにお誂え向きの切り立った所はない。
二人とラガーが眠る場所さえむつかしい。
やっと大岩の根元に石や砂が吹込んで僅かの平地を作っている所を見付け、そこに休む事にした。
オモンは火を作った。
昼間に捕えた小動物を焼いて、木の実と共に食べた。
ララは目を輝かせ、焼いた肉を懸命に食べている。
あの岩屋では奪い合いになるので、小さなララは始めから諦めて食べる事もなかったのだろう。
オモンはそんなララをいとおしいと感じた。
「この方面には君の仲間は誰も来た事がないのか?」
「キコはよく知っている。
キコは何でも知っている」
「彼は来たかも知れないのだね。
クスシはどうだろう?」
ララは食べるのに夢中で答えなかった。
知らないのかも知れない。
もしクスシに見つからないのなら、火を大きくしたい。
ターナや、もしかすると東の方から来るトロが見付けてくれるかも知れないから。
”トロとはどれだけ離れているだろう?
まだ遠いかも知れない。
もう少し行ってから、合図をしよう。
もしクスシがララや私を追うなら、昨夜からだが、キコ達が持って帰ったあの獲物で昨夜は満足したかも知れない。
いくら獣人でも一日であの草原は越えられないだろう。
追付かれるなら、後一日二日ある。
それまでにトロに会えれば何とかなるだろう”
充分食べたララはその場に丸くなって眠ってしまう。
オモンも眠る事にした。
ラガーが騒ぐのに気付いてオモンは起き上がった。
ララも目を覚まして辺りを見ている。
あちこちの岩影にちらちら動く黒い影がある。
「アミ、小さくってまずい」ララが顔を顰めた。
まずいかも知れないが、鋭い牙と爪が星明りに光っている。
数も多い。
オモンは木槍を構えた。
横合いから一匹がちょろちょろ出て来た。
星人の三分の一ぐらいの黒い鼠のような動物。
槍を繰り出すとさっと隠れる。
しばらくすると、他の方向からちょろちょろ。
ララが石を投げるとさっと隠れる。
目を逸すとまたちょろちょろ。
ラガーの足元にも近付く。
ラガーが蹴るとさっと引上げる。
ラガーはあからさまに苛立っている。
一匹がまた出て来た。
素知らぬ顔をしていると足元まで来る。
槍を突き降ろす。
さっと逃げてしまった。
ララの投げる石が岩に当る音が背後でする。
背筋に寒けが走った。
”これは!”
キ、キ、キ
気味の悪い音がアミの喉から洩れる。
オモン達を嘲笑っているようだ。
振返ると、大きな奴が岩の上から見下ろしている。
オモンは焦って、飛び上がった。
キ、キ、キ、キ
嘲笑いの大声を上げてそいつはさっと岩から飛び下りた。
その鼻先を細い棒がかすめた。
キイー
そいつは恐怖の声をあげて身を翻して逃げて行った。
そいつの恐怖が伝染したように、他のアミも全て恐怖の声をあげて逃げ散って行った。
オモンはほっとして、細い棒が飛んで来た方を眺めた。
「チェレン!」
ララの声がいかにも嬉しそうだった。
”まさか、どうしてこんなに早く来られるのだ?”
向うの岩を越えてやって来るのは、左手に弓と矢を持つ、まさしくチェレンだった。
「ララ、無事だったかい。
アミは危険な動物だ。
あまり長い間アミと遊んでいてはいけないよ」
”ふざけるな”
「チェレン、やはり来てくれたのね。
キコはきっと貴方が来てくれるって」
”そういう筋書だったのか”
チェレンは暗い目でオモンの方を向いた。
「君はララをどうするつもりだ?」
「こちらこそ聞きたいね。
これはどういう企みなのだ?
私はこの女にあそこから逃してくれと頼まれただけだ。
どうするつもりもない」
チェレンはララを振返った。
「チェレン、この人はいい人。
私が頼んだ。
私、もうあそこに戻らない」
「ああ、アミはもう居ないし、彼が危険でないなら、私は眠い。
朝まで寝かせてくれ」
オモンを混乱させ、それ以上一言も言わせず、チェレンは狭い岩の根元に大の字になって、眠ってしまった。
第二章 チェレン獣人の岩屋を脱出する 6
翌朝、二人はラガーを引いて南に見える森に向って岩山を下り、東に向った。
岩場も森の中も進み難く、常にララに手を貸してやらなければならなかった。草原育ちのラガーもオモンを煩わせる。
食べ物は木の実や小動物が充分得られた。
「こちらの方が充分食べる物がある。君の仲間はなぜ、こちらに住もうとしないのだ?」
「東の森はクスシでも危険だと、キコが言っていた」
「それで、君は怖がっているのか?」
「私は怖くない。怖がっていない」
オモンは黙ってララの言葉を認める事にした。
日が傾きかけると、オモンは夜営の場所が気になった。
”岩山が安全か?森の中か?”
森の中はもう暗い。
獣の声が夕闇の迫るにつれ、多く大きくなる。
岩山にはまだ日が当っているので、安全であるように思えた。
昨夜のようにお誂え向きの切り立った所はない。
二人とラガーが眠る場所さえむつかしい。
やっと大岩の根元に石や砂が吹込んで僅かの平地を作っている所を見付け、そこに休む事にした。
オモンは火を作った。
昼間に捕えた小動物を焼いて、木の実と共に食べた。
ララは目を輝かせ、焼いた肉を懸命に食べている。
あの岩屋では奪い合いになるので、小さなララは始めから諦めて食べる事もなかったのだろう。
オモンはそんなララをいとおしいと感じた。
「この方面には君の仲間は誰も来た事がないのか?」
「キコはよく知っている。
キコは何でも知っている」
「彼は来たかも知れないのだね。
クスシはどうだろう?」
ララは食べるのに夢中で答えなかった。
知らないのかも知れない。
もしクスシに見つからないのなら、火を大きくしたい。
ターナや、もしかすると東の方から来るトロが見付けてくれるかも知れないから。
”トロとはどれだけ離れているだろう?
まだ遠いかも知れない。
もう少し行ってから、合図をしよう。
もしクスシがララや私を追うなら、昨夜からだが、キコ達が持って帰ったあの獲物で昨夜は満足したかも知れない。
いくら獣人でも一日であの草原は越えられないだろう。
追付かれるなら、後一日二日ある。
それまでにトロに会えれば何とかなるだろう”
充分食べたララはその場に丸くなって眠ってしまう。
オモンも眠る事にした。
ラガーが騒ぐのに気付いてオモンは起き上がった。
ララも目を覚まして辺りを見ている。
あちこちの岩影にちらちら動く黒い影がある。
「アミ、小さくってまずい」ララが顔を顰めた。
まずいかも知れないが、鋭い牙と爪が星明りに光っている。
数も多い。
オモンは木槍を構えた。
横合いから一匹がちょろちょろ出て来た。
星人の三分の一ぐらいの黒い鼠のような動物。
槍を繰り出すとさっと隠れる。
しばらくすると、他の方向からちょろちょろ。
ララが石を投げるとさっと隠れる。
目を逸すとまたちょろちょろ。
ラガーの足元にも近付く。
ラガーが蹴るとさっと引上げる。
ラガーはあからさまに苛立っている。
一匹がまた出て来た。
素知らぬ顔をしていると足元まで来る。
槍を突き降ろす。
さっと逃げてしまった。
ララの投げる石が岩に当る音が背後でする。
背筋に寒けが走った。
”これは!”
キ、キ、キ
気味の悪い音がアミの喉から洩れる。
オモン達を嘲笑っているようだ。
振返ると、大きな奴が岩の上から見下ろしている。
オモンは焦って、飛び上がった。
キ、キ、キ、キ
嘲笑いの大声を上げてそいつはさっと岩から飛び下りた。
その鼻先を細い棒がかすめた。
キイー
そいつは恐怖の声をあげて身を翻して逃げて行った。
そいつの恐怖が伝染したように、他のアミも全て恐怖の声をあげて逃げ散って行った。
オモンはほっとして、細い棒が飛んで来た方を眺めた。
「チェレン!」
ララの声がいかにも嬉しそうだった。
”まさか、どうしてこんなに早く来られるのだ?”
向うの岩を越えてやって来るのは、左手に弓と矢を持つ、まさしくチェレンだった。
「ララ、無事だったかい。
アミは危険な動物だ。
あまり長い間アミと遊んでいてはいけないよ」
”ふざけるな”
「チェレン、やはり来てくれたのね。
キコはきっと貴方が来てくれるって」
”そういう筋書だったのか”
チェレンは暗い目でオモンの方を向いた。
「君はララをどうするつもりだ?」
「こちらこそ聞きたいね。
これはどういう企みなのだ?
私はこの女にあそこから逃してくれと頼まれただけだ。
どうするつもりもない」
チェレンはララを振返った。
「チェレン、この人はいい人。
私が頼んだ。
私、もうあそこに戻らない」
「ああ、アミはもう居ないし、彼が危険でないなら、私は眠い。
朝まで寝かせてくれ」
オモンを混乱させ、それ以上一言も言わせず、チェレンは狭い岩の根元に大の字になって、眠ってしまった。


