四兄弟神の星3
四兄弟神の星 3
第一章 リュウ蛇人の山を越える 3
リュウは何年ぶりかで寝過した。どういうものか、父と暮していた頃の様に安心して眠れたのだ。
ターナも老人もいなかった。
もう一度洞窟の中を見回した。
洞窟にも朝の光が溢れていた。
土で作った半球の容器。
片隅に木の葉のように薄いものが幾枚も重ねて端で綴じてある。
ナイフがある。
ナイフの柄に落書きがある。リュウは落書きだと思った。
羽のある人間。鳥人だ。
短い手だけで足がなく、尾があるのは蛇人だ。
これは何だ。両手の他に四本足の人間。
最後は僕やカラのような人間。
すると四本足の人間というのもいるのだろうか?
考え込んでいると、ターナが覗きこんだ。
「寝坊のリュウ。まだ、寝てるの?」
リュウは黙って外に出た。
カラが地を掘っていた。
小さな草の根や地虫が足元に集められていた。
食べ物を集めるカラはリュウに気が付かない。
リュウは先程のナイフを見ながら考え込んだ。
大きく一呼吸すると、ナイフを逆手に、カラの首の付け根めがけて振下ろした。
「わ!」
カラは辛うじて、横に転んできっ先をかわした。
「・・・」
地に転んだまま、恐怖に満ちた目を見開いてリュウを見上げる。
ターナが驚きつつもリュウに加勢しようと、身構えている。
リュウはカラの傍らにしゃがみ込み、ナイフをカラの手元に置いた。
「脅かしてすまなかったな。
じいさん。
ところで、じいさんは死ぬまで、ここに居るつもりか?」
「何が望みだ?
私はたいした物は持っていないぞ。
筋と皮だけで肉なんかついてない。
金目の物なぞない」
「僕の望みは、じいさんだ。
連れが欲しい。
ターナは生れたばかりの子供で相談相手にならない。
じいさんに旅をする体力がなかったら、放って行くが、今の動きでは、ついて来れるだろう。
僕を助けてくれないか?」
「私がおまえを助けられると、どうして、わかる」
「僕と一緒に来るの? 来ないの?」
リュウは癇癪を起こした。
カラは起上がった。
「息子や孫が居なくなってから、星人を見るのは初めてだ。
どこに行くか知らんが、一緒に行こう」
リュウは頷いて、氷のように冷たい微笑を浮かべた。
「星人とは何だ?」
カラは手に持たされたナイフの柄を示した。
「これは鳥人、鳥のように羽根があって飛べるのはターナを見ればわかる。
これは蛇人、蛇身だが何にでも変身出来るのを、もうおまえは知っている。
これは獣人、四つ足の肉食獣の体と力を持つ。
これが星人、頭と手足を充分伸せば、夜空の星の形になる。
知性を持つと言う」
「僕達のような人間のことか?」
「全て人間だ。互に交わる事ができる」
「四種類の人?」
「蛇人はどこにでも居る。
鳥人は鳥人の山にしか居ない。
獣人は偶に獣人の山のある島から、出て来る事がある。
星人は星人の山から出て、あちこちに町や村を作った」
「カラはよく知っている」
「全て書物に書いてある」
「書物?」
カラの窟の財産はその書物が全てだった。
カラは老人だったし、リュウもまだ、それ程体力はなかったが、全て持って行く事にした。
一番気を引かれたのは、大異変前つまり火の雨が降る前の地図だった。
それによると、リュウが通って来た鳥人の山と蛇人の山の間は全く人跡未到の地。
鳥人の山の東にある魔法の国は伝説として、カラの世界の人に知られていただけ。
「蛇人の山の向うは昔からあんなに高い崖だったの?」
「誰も行った者は居ない」
「じいさんは始め、なぜ鳥人がこんな所に居るのだろうと言ったね。
鳥人は羽根があって、どこにでも行けるからおかしくはないだろう?」
「鳥人はどこへでも行ける。
しかし、どこへも行かない。
昔からそうなのだ。鳥人を見た者は居ない」
「じゃ、どうして、鳥人の山が在る事がわかるの?」
「大昔からわかっていたのだ」
「ふーん、変なの」
「星人は蛇人の山を越える事は出来ない。
もし越えるなら、蛇人の使い神ターナを友としなければならない、と言われている」
「ははあ、ターナね」
カラの窟を出てからも、どこまで行っても何もない荒地だった。
日が暮れると適当に野宿する。
ターナが蛇人の山から運んだ木の実や、その場を掘って得た草の根、地虫を食べながら、光の残る間、リュウは書物を開いた。
暗くなると、カラは話をしてくれた。
「僕は適当にあいつにターナと名付けただけだがなあ」
リュウは、まだ薄明りの残る空をくるくる飛んでいるターナを横目で見て、言った。
「僕は谷間で父と二人で暮していた。
ある日、一人で山を越えた。
森の中に大きな石の建物があって、中に変な物があった。
人間の顔をしてると思うと次の瞬間には長い蛇のような鼻がついてる。
鳥になったり、狼になったり、体もころころ変る。
変らないのは、手や頭の位置。
一人の男がその前で跪いて足の所に口付けしていた。
そいつが出て行ってから、僕はそいつの真似をして、立ったまま、それに口付けした。
胸の辺りだった。
それから、男の跡をつけた。
木の囲いの中に小さな木の建物がたくさんあって、たくさんの人がいた。
男は建物の一つに入った。
女が居た。
女を見たのはそれが初めてだ。
二人を見ていて、男が眠ると、僕はまた男の真似をした。
目を覚ました男が怒って追いかけて来た。
足の速い男で、もう少しで捕まりそうだった。
あの石の建物に逃げ込むと、男は追って来なかった。
谷間に戻って父に話すと、父は怒って、『おまえは充分成長した。
父は年を取り過ぎた。おまえを育てられない』と言って、僕をボートで海に流したのだ。
男の仲間が蛇をターナと呼んでいた」
陽気はだんだん暖かくなるので、くっついて寝たがるターナを放り出した。
くっつくだけでなく体の一部を擦り付けるのが、煩わしい。
カラは寂しそうにしているターナを抱いて寝てやったので、ターナはカラにもすっかり馴染むようになった。
ターナはどんどん成長し今ではリュウの肩に近付いていた。
第一章 リュウ蛇人の山を越える 3
リュウは何年ぶりかで寝過した。どういうものか、父と暮していた頃の様に安心して眠れたのだ。
ターナも老人もいなかった。
もう一度洞窟の中を見回した。
洞窟にも朝の光が溢れていた。
土で作った半球の容器。
片隅に木の葉のように薄いものが幾枚も重ねて端で綴じてある。
ナイフがある。
ナイフの柄に落書きがある。リュウは落書きだと思った。
羽のある人間。鳥人だ。
短い手だけで足がなく、尾があるのは蛇人だ。
これは何だ。両手の他に四本足の人間。
最後は僕やカラのような人間。
すると四本足の人間というのもいるのだろうか?
考え込んでいると、ターナが覗きこんだ。
「寝坊のリュウ。まだ、寝てるの?」
リュウは黙って外に出た。
カラが地を掘っていた。
小さな草の根や地虫が足元に集められていた。
食べ物を集めるカラはリュウに気が付かない。
リュウは先程のナイフを見ながら考え込んだ。
大きく一呼吸すると、ナイフを逆手に、カラの首の付け根めがけて振下ろした。
「わ!」
カラは辛うじて、横に転んできっ先をかわした。
「・・・」
地に転んだまま、恐怖に満ちた目を見開いてリュウを見上げる。
ターナが驚きつつもリュウに加勢しようと、身構えている。
リュウはカラの傍らにしゃがみ込み、ナイフをカラの手元に置いた。
「脅かしてすまなかったな。
じいさん。
ところで、じいさんは死ぬまで、ここに居るつもりか?」
「何が望みだ?
私はたいした物は持っていないぞ。
筋と皮だけで肉なんかついてない。
金目の物なぞない」
「僕の望みは、じいさんだ。
連れが欲しい。
ターナは生れたばかりの子供で相談相手にならない。
じいさんに旅をする体力がなかったら、放って行くが、今の動きでは、ついて来れるだろう。
僕を助けてくれないか?」
「私がおまえを助けられると、どうして、わかる」
「僕と一緒に来るの? 来ないの?」
リュウは癇癪を起こした。
カラは起上がった。
「息子や孫が居なくなってから、星人を見るのは初めてだ。
どこに行くか知らんが、一緒に行こう」
リュウは頷いて、氷のように冷たい微笑を浮かべた。
「星人とは何だ?」
カラは手に持たされたナイフの柄を示した。
「これは鳥人、鳥のように羽根があって飛べるのはターナを見ればわかる。
これは蛇人、蛇身だが何にでも変身出来るのを、もうおまえは知っている。
これは獣人、四つ足の肉食獣の体と力を持つ。
これが星人、頭と手足を充分伸せば、夜空の星の形になる。
知性を持つと言う」
「僕達のような人間のことか?」
「全て人間だ。互に交わる事ができる」
「四種類の人?」
「蛇人はどこにでも居る。
鳥人は鳥人の山にしか居ない。
獣人は偶に獣人の山のある島から、出て来る事がある。
星人は星人の山から出て、あちこちに町や村を作った」
「カラはよく知っている」
「全て書物に書いてある」
「書物?」
カラの窟の財産はその書物が全てだった。
カラは老人だったし、リュウもまだ、それ程体力はなかったが、全て持って行く事にした。
一番気を引かれたのは、大異変前つまり火の雨が降る前の地図だった。
それによると、リュウが通って来た鳥人の山と蛇人の山の間は全く人跡未到の地。
鳥人の山の東にある魔法の国は伝説として、カラの世界の人に知られていただけ。
「蛇人の山の向うは昔からあんなに高い崖だったの?」
「誰も行った者は居ない」
「じいさんは始め、なぜ鳥人がこんな所に居るのだろうと言ったね。
鳥人は羽根があって、どこにでも行けるからおかしくはないだろう?」
「鳥人はどこへでも行ける。
しかし、どこへも行かない。
昔からそうなのだ。鳥人を見た者は居ない」
「じゃ、どうして、鳥人の山が在る事がわかるの?」
「大昔からわかっていたのだ」
「ふーん、変なの」
「星人は蛇人の山を越える事は出来ない。
もし越えるなら、蛇人の使い神ターナを友としなければならない、と言われている」
「ははあ、ターナね」
カラの窟を出てからも、どこまで行っても何もない荒地だった。
日が暮れると適当に野宿する。
ターナが蛇人の山から運んだ木の実や、その場を掘って得た草の根、地虫を食べながら、光の残る間、リュウは書物を開いた。
暗くなると、カラは話をしてくれた。
「僕は適当にあいつにターナと名付けただけだがなあ」
リュウは、まだ薄明りの残る空をくるくる飛んでいるターナを横目で見て、言った。
「僕は谷間で父と二人で暮していた。
ある日、一人で山を越えた。
森の中に大きな石の建物があって、中に変な物があった。
人間の顔をしてると思うと次の瞬間には長い蛇のような鼻がついてる。
鳥になったり、狼になったり、体もころころ変る。
変らないのは、手や頭の位置。
一人の男がその前で跪いて足の所に口付けしていた。
そいつが出て行ってから、僕はそいつの真似をして、立ったまま、それに口付けした。
胸の辺りだった。
それから、男の跡をつけた。
木の囲いの中に小さな木の建物がたくさんあって、たくさんの人がいた。
男は建物の一つに入った。
女が居た。
女を見たのはそれが初めてだ。
二人を見ていて、男が眠ると、僕はまた男の真似をした。
目を覚ました男が怒って追いかけて来た。
足の速い男で、もう少しで捕まりそうだった。
あの石の建物に逃げ込むと、男は追って来なかった。
谷間に戻って父に話すと、父は怒って、『おまえは充分成長した。
父は年を取り過ぎた。おまえを育てられない』と言って、僕をボートで海に流したのだ。
男の仲間が蛇をターナと呼んでいた」
陽気はだんだん暖かくなるので、くっついて寝たがるターナを放り出した。
くっつくだけでなく体の一部を擦り付けるのが、煩わしい。
カラは寂しそうにしているターナを抱いて寝てやったので、ターナはカラにもすっかり馴染むようになった。
ターナはどんどん成長し今ではリュウの肩に近付いていた。
| HOME |


