炎の惑星 17

 病室。
 春樹は眠っている。
 美智子は暫く春樹を見詰めていた。
 春樹の顔には苦しんだ跡がある。

 やがて春樹は歯を喰いしばり、目を開いた。
「具合はどうですか」
「ありがとう、貴方でしたか。
 随分いいですよ。
 手足は動かせるし。
 この上は自分で寝返りを打ちたいですね」
「もうすぐ母船に着きます」
 春樹は目を反らしたので、美智子は息を呑んだ。
「春樹、着かないのですか?
 先日貴方が口にした時限爆弾は本当なのですね」
 春樹は視線を戻し、美智子を見詰めた。

「どこに、それを仕掛けたのですか?
 どの程度の規模の火薬ですか?」
「そんな事を言っても取外す事はもはや不可能です。
 私はこの通り動けないのだから」
 美智子はベッドの傍らに跪いた。
「春樹。
 私達はここから退去するつもりです。
 でも貴方は母船に着くまで動かせない。
 死んでしまうのですよ。
 私は出来る限りの事をします。
 言って下さい。
 貴方の助かる方法を」
「私を助ける?
 本気で?
 母船に戻れば、貴方は直に私を告発しなければならない。
 そうでしょう?」
「母船の意志はね。
 でも、私の心はそうじゃありません。
 貴方を助けるのは私の心だとおっしゃいましたね。
 私の心は貴方を助けたいのです」

「私を愛して下さるという事ですか?」
 美智子は顔を赤らめたが、はっきり頷いて言った。
「仲間の掟に従う限り。
 他の誰も私を自由には出来ません」
「葉一様以外はね」
 美智子は身ぶいした。

「私は彼を告発します。アンテ……」
 言いかけると、春樹はさっと手を伸ばして、美智子の口を押えた。

「あの人は仲間にとってかけがえのない人です。
 私の命よりも、貴方の命よりも。
 貴方には可愛い弟に過ぎないでしょうが、あの人は誰をも自由に出来る力がある。
 人だけでなく、物質をも」
「?」
 美智子には判らない。

「宇宙空間は恐ろしい所です。
 葉一様の力がないと私達の仲間は生延びれない。
 あの人がいるから、父達は安心して私達を未知の空間に送り出したのです。
 あの人の何を告発するのですか?
 あの人の唯一の罪は、あまりにも愛する心が深い事。
 葉一様に勝つのはそれ以上の愛です」
「……」

「爆発は午前三時。
 プログラム通り進行していれば母船のバリアーの外で爆発します。
 この船はばらばらになるでしょう。
 それまでに出来るだけ船から離れている事です」

「なぜ私達を殺そうとしたのですか?」
「貴方を道連れにしたかった。
 どちらにしても私は殺されるでしょう。
 貴方を愛したという事で。
 でも、貴方のその心さえ確かなら私は一人で安心して死ねます」
 春樹はにっこり笑った。
 美智子は激しく頭を振った。

 小さな鈴の音がして、壁のライトが瞬いた。
 保夫の声がスピーカーから流れた。
『母船が見えました。
 母船からの直接通信も受信出来ます。
 これから、母船の誘導で手動操縦に切換えます』

「私のプログラムから逃れる事が出来た訳だ」
 春樹は皮肉っぽく、小さく言った。

「判りました。
 到着は何時になりますか?」
『午前四時です。
 三時間で到着です』
と、答える保夫の声は生き生きしている。

「後二時間で爆発。
 間に合わない。
 美智子様。
 退去の御準備を」

 春樹は手を伸ばして、美智子の肩を撫で、囁いた。
「私のものと信じてもいいですか?」
 美智子は顔を上げて、頷いた。
「お幸せに。
 さあ、彼等が心配している。
 貴方は彼等にとって大事な人だ。
 お行きなさい」
「春樹」

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