炎の惑星 11

 美智子は身ぶるいした。
「お願い。私は追放などいやです。
 司家の人間が追放などと」
「貴方の気持はもっともです。
 では、今、始様に了解を貰って下さい」
「アンテナが壊れて、通信ができません」
 春樹はにっこり笑った。
「私はこの船の船長であり、製作者です。
 出発に際しては細かく点検し、不都合を改善しています。
 貴方と始様との個人通信用のアンテナは別の回路にしておきました」
「なんですって。では、個人通信の傍受も?」
「そんな事はしません」

 美智子は睨んだが、春樹は首を振って笑っている。
 美智子は立上がって、机の中の通信機のスイッチを入れた。
 春樹は緊張した顔で美智子の後姿を眺めた。

 やがてランプがともって、始の声が響いた。
『ああ、よかった。
 姉さん。
 連絡がなくなったけれど、どうしたの?』
「通信用アンテナが壊れたのです。
 明日、春樹に修理して貰います」
『壊れたって?
 では、この通信は?』
「別回路になっているのです」
『そんな事はない。
 これは僕と姉さんが二人で取り付けた……』

 始は何かに気付いて口を閉じたが、暫くして、また話し掛けた。
 静かな落着いた声だった。

『春樹か。
 彼は何を言っているのだい』
「……私との結婚を要求しています」
『二人が母船に戻れば、皆の前で認めよう』
「いえ、今」
『それは姉さんの意志かい?』
 穏やかながら、弟の怒りを感じて、美智子は唇を噛んだ。

『私は春樹と直接話をしよう。春樹、居るんだね、そこに』
 美智子は一歩退いて春樹に背を向けた。

『春樹、どうしてそんなに急ぐのだ?』
 春樹は流石に絶対者の前で緊張していた。
 が、勇気を出して言った。
「私は危険な大気中で溶接作業を行います。
 塩素ガスは流入して、爆発するでしょう」
『命の危険があると、言うのか?
 それで、美智子が君を拒否した場合、君はどうするつもりだった』
「この探検船を奪って宇宙の果てまでも、逃げます。
 恋しい人と二人で」

『他の四人は?』
「この惑星に残します。この惑星は彼等を速やかに同化するでしょう」
『……』

 美智子は驚いて春樹を見た。
 さっきは取引と言ったのだ。

 始はなおも静かに言う。
『まるっきりの反乱だ。
 逃げてどうする?
 逃げおおせるつもりか?』
「宇宙は広い」
『しかし、生きてはいけない』
「美智子様と二人なら」

『わかった。
 春樹。
 しかし、美智子は君の目には頼りなく思えるだろうが、司家の総領娘。
 全員のアイドルなのだよ。
 君だけの者じゃない。
 私は全員の前でなければ認めるわけにはいかない。
 判ってくれるね。
 君の危険に際して、美智子は全力を尽くして君を守るだろう。

 美智子を信じてやって欲しい。

 姉さん、女が男に愛されるのは当然の事だ。
 貴方の名誉を踏みにじったものではない。
 貴方の任務を全うしなさい』
 通信のランプが消えた。

「あ」
 美智子はその場に棒立ちになった。
 春樹はうなだれていた。

 暫くして春樹は顔を上げた。
 手を伸ばして美智子の肩を掴む。
「本当に貴方は私を死の危険から守ってくれるのだろうか?
 信じていいのだろうか?」
「私の力の及ぶ限り」
「貴方の能力ではない。
 貴方の心なのだ」

 春樹は手を放した。
「私は貴方が好きだ。
 貴方を不孝にしたくはない。
 しかし、それには貴方の心が私にとって、信じられるものでなければならない」
「私は貴方を見殺しにはしません」

 春樹は暫く美智子を眺め、くるりと背を向けて部屋から出て行った。

 美智子は力が抜けて、ソファに座り込んだ。


 夜が明けると春樹は宇宙服の完全装備で、器具を点検した。
 保夫は黒いタイトスーツに同色同素材の手袋と靴を着け、ヘルメットを首の後に付けた姿で春樹を手伝っていた。
 一郎は金茶色のスーツに手袋と靴を着けて、座っている。
 浩人は観測機に向い、和子は記録を取っていた。

 美智子が入って来た。
 彼女も銀色のスーツに手袋と靴、ヘルメットを付けている。

「風は殆どありません」
と、保夫。
「浩人叔父、大気の様子は?」
「水素ガスは極く僅か、メタンも危険ではありません。
 塩素も今なら問題はありません」
「それでは一刻も早く作業を開始して下さい」

 春樹は二重扉から船外に出て行った。
「保夫、カメラをアンテナの基部に向けて据え付けて下さい」
 保夫がヘルメットを被りテレビカメラを担いで二重扉から出ると、すぐにブラウン管にアンテナの基部に向う春樹の姿が映った。
 工具と予備のアンテナを背に春樹は磁化された靴を船体につけてゆっくり歩いている。
 アンテナに辿り着いた春樹は直ちに作業を始めた。

「春樹、基部をそのまま記録します。
 身体をよけてください」
 美智子の言葉を無視して、ブラウン管の春樹は作業を続けている。
「春樹、アンテナの様子を記録します。
 よけてください」
 美智子は強く命じた。
 春樹は当惑した顔を向けて、僅かに身体を動かした。

 すでにやすりをかけた跡があった。

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