炎の惑星 6

 自分の部屋に、美智子は頭を上げ、誇りに満ちた様子で入ったが、すぐうなだれた。
「通常警報の意味を彼は悟り、隊長の私は判らなかった。きっと彼は私を嘲笑しているわ」
 美智子は机の上板を上げた。
 その中に通信機がある。
 しばらく考え、ゆっくり操作した。
 時計を見、通信機を見詰め、また時計を見る。

 通信機に小さなライトがともる。
 美智子はため息をついた。
「貴方は、先刻の事件をもう御存知ですね。御指示を仰ぎたいと思います」
 通信機からは始の声が聞こえた。
『何の指示ですか』
「私は隊長として事件に間に合いませんでした。
 春樹の方が、指揮官として相応しいのではないでしょうか?」
『それはダメだ。
 あいつの処置は適切だ。
 危急の場合は役に立つ。
 しかし、あなた方の目的は観測であって、戦闘ではない。
 判って戴けますか』
 美智子は頷いた。
「はい、でも、この事から、彼は私をないがしろにしないでしょうか?」
『司美智子!
 貴方の任務を遂行しなさい』
 厳しい始の声と同時に通信機のライトが消えた。
 美智子は唇を噛み締めた。
「何と馬鹿な事を。
 弟とは言え、この私が人に弱みを見せるなど。
 美智子! 恥を知りなさい。
 ああ」
 美智子は傲然と頭をあげ、豊かな黒髪を揺らせて部屋を出て行った。


 まだ夜は明けなかった。
 展望室では、一郎がブラウン官を見たり、窓の外を覗いたりして、メモを取っている。
 和子が通信台に、浩人は机に向っている。

 美智子は入って来て声をかけた。
「変りありませんか?」
「あれは生きています」
と、一郎が窓の外を指差した。

 星明りの水面に細かい昆布が動き回っている。
「水面を動いて、二つが一つになり、いや、偶然ではなく、互に近づき合って一つになるのです」
 藻の上に昆布が這い寄る。
 去った後に藻は消えている。
 昆布は岸に上がって動き回り続ける。

「昆布が藻を食べたと考えられるのです。
 少しづつ成長するようです」
「あれ以来襲って来ないのですね」
「びっくりしたのかな、ハ、ハ、ハ」
と、一郎は笑った。
「あら、違いますよ。
 小さく分れてしまったので、ここまで届かないのですよ。
 水中には、もう中間反射体はありませんもの」
と、和子。
「水中ではどのぐらいの大きさでしたか?」
「百へーべぐらいは充分。
 ええ、五十メートルの高さまで充分伸びますわ」

「それが粉々になってもなお生命活動を営んでいるとすると、サンプリングしても生命を脅かす事にはならないと考えますが」
 美智子の言葉に浩人は飛上がるようにして割込んで来た。
「容器はどうしますかね。
 大気中にはシアンと塩素があり、この探検船の外壁を腐食するので、コーテイングするのですが、
 コーテイング剤の中に珪素がある。
 あの生物は珪素を食べているように思える。
 推測に過ぎませんが、海中の苔の時も珪素がそばにありました」
「容器の中を更にシアン化ニッケルでコーテイングしましょう。
 シアン化ニッケルはこの星にはいくらでもありましたね」
 浩人は頷いた。

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