炎の惑星2
一郎が興奮した顔で入って来て、横目で春樹を見た。
春樹は所在なさそうに片手を操縦盤の隅に置き、ぼんやり美智子を見ている。
「あの男がぼんやりしているとは奇妙だなあ」
「あの男がぼんやりしているとは妙だ」
一郎は何度も呟きながら外を観察し、操縦席に近づき、操作した。
窓の外では種々の光が昆布と苔目がけて走った。
岩を巡って機体が移動する。
その間、光は放射され続けた。
一郎は美智子を振返った。
「採集したいと考えます」
「よろしい。機内が汚染されないように万全を期して下さい」
「鋼(ハガネ)と鉛とプラスチックの三重包装に対シアンのコーテイングを施した容器を使います。
岩石、海水及び砂をも同時に採取します。
昆布は今回、採取しません。一部切ってもいいのかも知れませんが、この原始の海で、生命が発生しかけているなら、傷付けるのは好ましくないと考えます」
「また機会はいくらでもあるでしょう」
美智子は答えた。
一郎は操作を終わって、出て行った。
「用があったら、呼んで下さい」
美智子も去った。
探照灯の光は岩から遠ざかる。
岩の陰の昆布が急に大きく伸上がり、視界から消えた。
赤道を東に進んで二日。
火山の海が続く。
そこで進路を北に、唯一の大陸に向った。
窓の外は煙を噴く火山が所々に浮ぶ明るい海。
雲はない。
西側遥かに陸影が浮ぶ。
美智子は正中時の天体観測をし、保夫は操縦席についていた。
ノートを広げてデータの整理をしていた一郎は、観測機器のチェックをする浩人に話かけた。
「火山と言えば硫黄の匂いがつきものですが」
「ところが、ここではシアンの匂いがする」
「それで、この海中はシアンが多いのですね」
「すると、空中に塩素が多いのはどういう理由だろう。シアンと塩素さえなければ、ここは人間には快適なのに」
また保夫が口を挟んだ。
航海は平穏で彼は退屈している。
和子は向うを向いたままだ。
「ある星の成分がどうしてそんな割合なのか、全ての解答なんて見出せないよ」と、一郎。
「有機物はどうしても見つからないね。
炭素の化合物と言えば、シアンとメタンだけ。
愛想のない星だ。
地球と環境が似ているから期待したのになあ。
先日の苔の分析結果はまだかい」と、浩人。
「僕が生物学的に、春樹が生化学的に調べています。
春樹は機械室のリーダーでありながら、生化学的造詣も相当なものだ。
こんな小人数の探検では重宝だね」
と、一郎は保夫をじろっと見るが、こんな時には保夫はそっぽを向いて、呟いている。
「ふん、生物学と医学なんてのも、同じようなもんじゃないか」
春樹が中央の扉から入ってくると、一同は注目した。
春樹が一郎の傍らでデータを照らし合わす。
一郎は眉を寄せて言った。
「では、有りえない事なんだ」
「この苔に関してはね」と、春樹。
美智子は天体観測の手を止め、振返った。
「どうでした?」
「説明します。保夫、通信を母船と繋いでくれ」
一郎が言うと保夫は生唾を飲み込み、機器の操作をした。
「まず、苔が付いていた岩には珪素とニッケルが含まれていました。
ところが、この星には珪素は極く僅かです。
ですから、あの岩は火山の噴火か、隕石だと思われます。
で、苔ですが、珪素とシアンとメタンとニッケルが主成分です。
シアンとメタンは結合しているのですが、有機物とは言えません。
苔のように見えるのは、ニッケルのキレート結合でシアンの三重結合が繋がれ、その一本一本を繋ぐのが珪素なのです」
「なんと、原始的な。
珪素では炭素程強い結合ができない筈だ」と、浩人は驚いた。
「海中にはシアンによって融け出した珪素が多量にありました」と、春樹。
美智子は性急に言った。
「で、その傍らにあった昆布の様な物は?
苔が成長したものなのですか?」
「いえ、成分が違います。
光のスペクトル分析では炭素の二重結合がありましたし、カリウムや塩素も含まれていました」と、一郎。
美智子は一郎を見詰めた。
「研究してみる価値がありそうですね。この大陸を一周したら、戻ってみましょう」
「今すぐでも戻りたいですね」と、一郎。
しかし、美智子は「今は予定通り進みます」と、言った。
展望室の夜。
明りはないが、薄明るい。
四つ並んだブラウン管には海中の様子が映る。
上方は海中だが時々小さな波が起り、星空が覗く。
下方のブラウン管には海底。海底との距離は一定だった。
一郎は一人で操縦席に向っていた。
「明るい星空だなあ」
急に春樹の声がしたので、一郎が驚いて振返った。
「なんだ? こんな夜中に。当直を替ってくれるのか?」
「岸はどうなっているんだろうね」
「万一の時は、君が全責任を負わなきゃならんから、早く知っておく必要はある」
言いながら、一郎は席を替った。
春樹は操縦盤を操作して、横のブラウン管を見た。
ブラウン管には暗い陸地が映っていた。
春樹は所在なさそうに片手を操縦盤の隅に置き、ぼんやり美智子を見ている。
「あの男がぼんやりしているとは奇妙だなあ」
「あの男がぼんやりしているとは妙だ」
一郎は何度も呟きながら外を観察し、操縦席に近づき、操作した。
窓の外では種々の光が昆布と苔目がけて走った。
岩を巡って機体が移動する。
その間、光は放射され続けた。
一郎は美智子を振返った。
「採集したいと考えます」
「よろしい。機内が汚染されないように万全を期して下さい」
「鋼(ハガネ)と鉛とプラスチックの三重包装に対シアンのコーテイングを施した容器を使います。
岩石、海水及び砂をも同時に採取します。
昆布は今回、採取しません。一部切ってもいいのかも知れませんが、この原始の海で、生命が発生しかけているなら、傷付けるのは好ましくないと考えます」
「また機会はいくらでもあるでしょう」
美智子は答えた。
一郎は操作を終わって、出て行った。
「用があったら、呼んで下さい」
美智子も去った。
探照灯の光は岩から遠ざかる。
岩の陰の昆布が急に大きく伸上がり、視界から消えた。
赤道を東に進んで二日。
火山の海が続く。
そこで進路を北に、唯一の大陸に向った。
窓の外は煙を噴く火山が所々に浮ぶ明るい海。
雲はない。
西側遥かに陸影が浮ぶ。
美智子は正中時の天体観測をし、保夫は操縦席についていた。
ノートを広げてデータの整理をしていた一郎は、観測機器のチェックをする浩人に話かけた。
「火山と言えば硫黄の匂いがつきものですが」
「ところが、ここではシアンの匂いがする」
「それで、この海中はシアンが多いのですね」
「すると、空中に塩素が多いのはどういう理由だろう。シアンと塩素さえなければ、ここは人間には快適なのに」
また保夫が口を挟んだ。
航海は平穏で彼は退屈している。
和子は向うを向いたままだ。
「ある星の成分がどうしてそんな割合なのか、全ての解答なんて見出せないよ」と、一郎。
「有機物はどうしても見つからないね。
炭素の化合物と言えば、シアンとメタンだけ。
愛想のない星だ。
地球と環境が似ているから期待したのになあ。
先日の苔の分析結果はまだかい」と、浩人。
「僕が生物学的に、春樹が生化学的に調べています。
春樹は機械室のリーダーでありながら、生化学的造詣も相当なものだ。
こんな小人数の探検では重宝だね」
と、一郎は保夫をじろっと見るが、こんな時には保夫はそっぽを向いて、呟いている。
「ふん、生物学と医学なんてのも、同じようなもんじゃないか」
春樹が中央の扉から入ってくると、一同は注目した。
春樹が一郎の傍らでデータを照らし合わす。
一郎は眉を寄せて言った。
「では、有りえない事なんだ」
「この苔に関してはね」と、春樹。
美智子は天体観測の手を止め、振返った。
「どうでした?」
「説明します。保夫、通信を母船と繋いでくれ」
一郎が言うと保夫は生唾を飲み込み、機器の操作をした。
「まず、苔が付いていた岩には珪素とニッケルが含まれていました。
ところが、この星には珪素は極く僅かです。
ですから、あの岩は火山の噴火か、隕石だと思われます。
で、苔ですが、珪素とシアンとメタンとニッケルが主成分です。
シアンとメタンは結合しているのですが、有機物とは言えません。
苔のように見えるのは、ニッケルのキレート結合でシアンの三重結合が繋がれ、その一本一本を繋ぐのが珪素なのです」
「なんと、原始的な。
珪素では炭素程強い結合ができない筈だ」と、浩人は驚いた。
「海中にはシアンによって融け出した珪素が多量にありました」と、春樹。
美智子は性急に言った。
「で、その傍らにあった昆布の様な物は?
苔が成長したものなのですか?」
「いえ、成分が違います。
光のスペクトル分析では炭素の二重結合がありましたし、カリウムや塩素も含まれていました」と、一郎。
美智子は一郎を見詰めた。
「研究してみる価値がありそうですね。この大陸を一周したら、戻ってみましょう」
「今すぐでも戻りたいですね」と、一郎。
しかし、美智子は「今は予定通り進みます」と、言った。
展望室の夜。
明りはないが、薄明るい。
四つ並んだブラウン管には海中の様子が映る。
上方は海中だが時々小さな波が起り、星空が覗く。
下方のブラウン管には海底。海底との距離は一定だった。
一郎は一人で操縦席に向っていた。
「明るい星空だなあ」
急に春樹の声がしたので、一郎が驚いて振返った。
「なんだ? こんな夜中に。当直を替ってくれるのか?」
「岸はどうなっているんだろうね」
「万一の時は、君が全責任を負わなきゃならんから、早く知っておく必要はある」
言いながら、一郎は席を替った。
春樹は操縦盤を操作して、横のブラウン管を見た。
ブラウン管には暗い陸地が映っていた。
炎の惑星1
炎の惑星
(一)同化作用
探検船は 海を行く
さざ波踊る 海を行く
太陽巡る 海を行く
見知らぬ星の 海を行く
球形の船は漂いながら、銀色の長いアンテナを六つの向きに伸ばす。上下と前後、右左。
展望室で動く影が明るく見える。
その間にも太陽は西に姿を消し、波のうねりはますます高い。
Yーα一三五の第五惑星探検隊の船の円形の展望室は中央に扉のついた柱。周囲の窓の下に操縦盤や通信機、机等。
窓の外は夜の海。空には地球から見るより多く大きい星が明るく輝き、水平線に向って伸びるアンテナが光っている。
「地球では生命は、海から生まれたのだよ。知ってるかい?」
内藤保夫は操縦席の隣の通信台に向かっている斉藤和子に話しかけた。
和子はこの一歳年下のまだ少年のような若者を馬鹿にしたように横目でちらっと見た。オレンジ色のタイトスーツは和子の陽気な性格と共に、ちょっとイケズな面も暗示していた。
保夫の黒いタイトスーツはチーフの貝塚春樹が黒だったから、倣ったに過ぎない。どういうものか機械部門の男達は昔から黒を好んだ。が、和子は保夫の黒いタイトスーツは単なる模倣だと、馬鹿にしている。
「だから、美智子様はまず、この惑星の海から探検する事に決められたのだ」
「知ってるわよ」と、和子。
牧浩人と鈴原一郎が中央の柱についた扉から現れると、保夫は立ち上がって向き合って立った。和子は通信機の前に座ったまま。
浩人がメモを片手に話し始める。
「大気にも水にも、シアン(青酸)が多く含まれている。次いでメタンと塩素ガス」
「酸素は?」
無神経に口を入れた保夫を浩人はじろっとにらんだ。浩人の教える化学教室で、保夫はいつも居眠りしているか、トンチンカンな質問をしているかだった。
「充分存在する。君は人が呼吸出来るかどうか、知りたいのだろうが、シアンも塩素も猛毒だ。酸素も、多過ぎると毒なのだよ」
浩人が一郎の方を向く。つまらんと言う顔で一郎は頷いた。一郎の金茶色のタイトスーツに入る赤い傍線は医師の印だ。
「だめか」
一人前の口をきく保夫をあやすように見、浩人は続けた。
「原始の地球もこういう状態だったと言われている。待ってみる事だね」
「何年ぐらい?」
「一億年かな」
保夫は通信機に向かう和子に話し掛けた。
「おじんになってしまうけど、待ってみる?」
「必要ならね。でも貴方と一緒にはいやよ」
「ふん」
中央の扉が開いて、探検隊長司美智子が現れた。すらりとした銀色のタイトスーツ姿の背に豊かに流れる黒髪は純銀に彫られた女神の像のようにゆったりと揺れていた。ひち難しい顔の若者達の瞳が輝き、うんざりしていた和子は心を和ませた。
浩人は威厳をもって、頭を下げ、美智子に同じ事を説明した。
美智子は頷いて一郎の方を向いた。
「生命の反応は? ありましたか?」
「メタンもシアンも炭素の化合物ですが、アンモニアがありませんので、蛋白質が出来る可能性は薄いですね。ただ赤道附近は火山活動が活発です。生合成の可能性はあります」
難しい話も美智子相手では誇りを感じ、そばで聞いていても易しくなる。
浩人が腕時計を見て、口を挟んだ。
「私はもう休みます。その前に有害な大気が機体を損傷しないように、コーテイングしておきます」
美智子は頷いた。
浩人と一郎は出て行った。
時計を見る和子に美智子は話し掛けた。
「今の浩人叔父の報告を母船に送りましたね。新しい発見の時まで貴方も休んでいいです」
「では、貴方の命令を母船に送ってから、休憩します」と、和子。
「海底を赤道に沿って、東に進みます。速度は二十四時間で次の太陽に出会えるように」
保夫が画面を見ながら、キーボードで計算していた。
「この惑星の自転速度は三十六時間ですから、三日で赤道を一周はかなり早いですね」
「何年もここに居るわけじゃないんですよ。赤道附近で三日もぐずぐず出来ません」
保夫は頷いてキーボード操作を続けた。
中央の扉が開いて貝塚春樹が出て来た。
保夫は春樹に引継ぎ、和子と共に出て行った。
春樹は操縦席に座り、船の状態、進路等を確認し始めた。
船は探照灯に照らされた海中をゆっくり降下した。
美智子は窓の外を見ていた。
春樹は操縦席に座って、時々操作した。
警報が鳴る。通常警報だ。
「固形物まで百メートル。水深千五百。もう海底なら、ずいぶん浅い海だ」
警報を止め、なおも降下を続ける。
「海底の砂地が見えてきました」と、美智子。
「採集はいらないでしょう。スペクトル分析だけ行います」と、春樹。
「このまま、海底を東に向います」
探照灯は波模様を描く砂地を照らしながら前進する。
所々に岩。
突然、美智子は前方を見詰め、息を呑んだ。声がややうわずる。
「もう少し右前方」
探照灯の光の中に、岩、その陰に揺れる黒い物体。
見極めて、美智子はやや落着いた。
「藻かしら。そう、そこで止めて」
探照灯が昆布のような物を照らす。
岩一面に苔のような物が見える。
「一郎を呼んで下さい」
(一)同化作用
探検船は 海を行く
さざ波踊る 海を行く
太陽巡る 海を行く
見知らぬ星の 海を行く
球形の船は漂いながら、銀色の長いアンテナを六つの向きに伸ばす。上下と前後、右左。
展望室で動く影が明るく見える。
その間にも太陽は西に姿を消し、波のうねりはますます高い。
Yーα一三五の第五惑星探検隊の船の円形の展望室は中央に扉のついた柱。周囲の窓の下に操縦盤や通信機、机等。
窓の外は夜の海。空には地球から見るより多く大きい星が明るく輝き、水平線に向って伸びるアンテナが光っている。
「地球では生命は、海から生まれたのだよ。知ってるかい?」
内藤保夫は操縦席の隣の通信台に向かっている斉藤和子に話しかけた。
和子はこの一歳年下のまだ少年のような若者を馬鹿にしたように横目でちらっと見た。オレンジ色のタイトスーツは和子の陽気な性格と共に、ちょっとイケズな面も暗示していた。
保夫の黒いタイトスーツはチーフの貝塚春樹が黒だったから、倣ったに過ぎない。どういうものか機械部門の男達は昔から黒を好んだ。が、和子は保夫の黒いタイトスーツは単なる模倣だと、馬鹿にしている。
「だから、美智子様はまず、この惑星の海から探検する事に決められたのだ」
「知ってるわよ」と、和子。
牧浩人と鈴原一郎が中央の柱についた扉から現れると、保夫は立ち上がって向き合って立った。和子は通信機の前に座ったまま。
浩人がメモを片手に話し始める。
「大気にも水にも、シアン(青酸)が多く含まれている。次いでメタンと塩素ガス」
「酸素は?」
無神経に口を入れた保夫を浩人はじろっとにらんだ。浩人の教える化学教室で、保夫はいつも居眠りしているか、トンチンカンな質問をしているかだった。
「充分存在する。君は人が呼吸出来るかどうか、知りたいのだろうが、シアンも塩素も猛毒だ。酸素も、多過ぎると毒なのだよ」
浩人が一郎の方を向く。つまらんと言う顔で一郎は頷いた。一郎の金茶色のタイトスーツに入る赤い傍線は医師の印だ。
「だめか」
一人前の口をきく保夫をあやすように見、浩人は続けた。
「原始の地球もこういう状態だったと言われている。待ってみる事だね」
「何年ぐらい?」
「一億年かな」
保夫は通信機に向かう和子に話し掛けた。
「おじんになってしまうけど、待ってみる?」
「必要ならね。でも貴方と一緒にはいやよ」
「ふん」
中央の扉が開いて、探検隊長司美智子が現れた。すらりとした銀色のタイトスーツ姿の背に豊かに流れる黒髪は純銀に彫られた女神の像のようにゆったりと揺れていた。ひち難しい顔の若者達の瞳が輝き、うんざりしていた和子は心を和ませた。
浩人は威厳をもって、頭を下げ、美智子に同じ事を説明した。
美智子は頷いて一郎の方を向いた。
「生命の反応は? ありましたか?」
「メタンもシアンも炭素の化合物ですが、アンモニアがありませんので、蛋白質が出来る可能性は薄いですね。ただ赤道附近は火山活動が活発です。生合成の可能性はあります」
難しい話も美智子相手では誇りを感じ、そばで聞いていても易しくなる。
浩人が腕時計を見て、口を挟んだ。
「私はもう休みます。その前に有害な大気が機体を損傷しないように、コーテイングしておきます」
美智子は頷いた。
浩人と一郎は出て行った。
時計を見る和子に美智子は話し掛けた。
「今の浩人叔父の報告を母船に送りましたね。新しい発見の時まで貴方も休んでいいです」
「では、貴方の命令を母船に送ってから、休憩します」と、和子。
「海底を赤道に沿って、東に進みます。速度は二十四時間で次の太陽に出会えるように」
保夫が画面を見ながら、キーボードで計算していた。
「この惑星の自転速度は三十六時間ですから、三日で赤道を一周はかなり早いですね」
「何年もここに居るわけじゃないんですよ。赤道附近で三日もぐずぐず出来ません」
保夫は頷いてキーボード操作を続けた。
中央の扉が開いて貝塚春樹が出て来た。
保夫は春樹に引継ぎ、和子と共に出て行った。
春樹は操縦席に座り、船の状態、進路等を確認し始めた。
船は探照灯に照らされた海中をゆっくり降下した。
美智子は窓の外を見ていた。
春樹は操縦席に座って、時々操作した。
警報が鳴る。通常警報だ。
「固形物まで百メートル。水深千五百。もう海底なら、ずいぶん浅い海だ」
警報を止め、なおも降下を続ける。
「海底の砂地が見えてきました」と、美智子。
「採集はいらないでしょう。スペクトル分析だけ行います」と、春樹。
「このまま、海底を東に向います」
探照灯は波模様を描く砂地を照らしながら前進する。
所々に岩。
突然、美智子は前方を見詰め、息を呑んだ。声がややうわずる。
「もう少し右前方」
探照灯の光の中に、岩、その陰に揺れる黒い物体。
見極めて、美智子はやや落着いた。
「藻かしら。そう、そこで止めて」
探照灯が昆布のような物を照らす。
岩一面に苔のような物が見える。
「一郎を呼んで下さい」
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