四兄弟神の星18

四兄弟神の星 18
    
    第三章 カサルの村壊滅 新たなる出発へ 2

 ターナの言う岩山は岡一つ向うだった。
 麓は林に囲まれ、木々は強風に大きく揺れていた。
 激しい獣の声、それに対する人間の叫びは僅かだ。
 その獣はこの山塊では小さい方だ。
 それでも星人の大人ぐらいはある。数十頭はいるだろうか?

 トロが見極める前に、前方の長い刀を振る男を襲っていた獣が急に飛上がって地に倒れた。
 獣の背に一本の矢。
 その男もよろけて膝を地に就く。
 トロはラガーから飛降り駆け寄って、男を抱え起こした。

「トロ、気を付けろ!」
 オモンの声だ。

 トロは襲って来た他の獣を辛うじて、木刀で叩き伏せた。
 抱えた男は意識がなく、がっしりしているが、かなりの老人だ。

 見回すと多くの男が倒れ、獣を防いでいるのは僅か。
 その中をラガーが駆回っていた。

 オモンが駆けて来て、ララをトロの傍らに降ろした。
「ララ、手当してやってくれ」
 そして、駆けて行った。

 トロは老人を地に横たえた。
 もう一度辺りを見回すと、多くの獣が倒れていたが、どれにも矢が立っている。
 何時の間にか獣の声が少なく、遠くなっていた。
 今まで戦っていた幾人かの男達は呆然と長刀に縋っていたり、地に崩れるように座り込んだ。

 オモンが駆け戻って来た。
「凄い奴だ。
 あのチェレンが殆ど矢で片付けてしまった。
 獣は逃げてしまった」
 老人がこの時、よろめきながら立上がった。

「どなたか知りませんが、礼を言います」
 と言い、立並んだ小屋の方に向って叫んだ。
「おうい、女達、死者を嘆くのは後だ。
 怪我人を手当しなさい」

 老人の身体が揺れたので、トロが支えると、彼は息をしていなかった。
「・・・」

「ララ!」
「この人、もう死んでいたわ、どうして喋れたのかしら」

四兄弟神の星17

四兄弟神の星 17
     第三章 カサルの村壊滅、新たなる出発へ

 今夜も子供達は薄明かりの残る間に薪を集め、日が落ちると集って来た。
 クリルは焚火に照された四兄弟神の祭壇に向って、感謝の祈りを始める。
 子供達は大人しくその後で手を合せた。
 お祈りが終り、クリルは振返った。
 目を輝かせた子供達がお話の続きを待っている。
 クリルは話し始めた。
「リュウの頼みで北の海に着いたオモンは、弓の上手なチェレンとララに出合ったのですね。
 トロとも再会して、四人はリュウの待つ南の草原に戻る事にしました。
 そこは大きな山塊で、深い森や険しい山が立ち塞がっています。
 西の街に火の雨が降ってから二十年、生残った人々は原始の森でどのようにしていたでしょう」



 暗くなるにつれ強風に雨が混じり、雨足はひどくなって来た。
 木は密生し大きな枝は頭上を覆っているのに、その枝をわさわさと鳴らし雨は激しく四人とラガー二頭に叩き付ける。
 深い森を南下して四日目だ。
 いつもは暗くなる前に夜営地を見つけたが、この日に限って木々の密生した地帯を中々抜けられない。
 チェレンが先頭で低い枝をくぐり、大きな木の根を避けて道を探す。
 トロとオモンはラガーを引いていた。
 人間より大きなラガーを通すのが一苦労。
 小柄なララは器用にチェレンに付いて行く。

「・・・」
 ララが前方に問いかけた。
 チェレンが何か喋ったのだろう。
 二人の話なら口を挟まない方がいい、事にこの頃トロは気付いていた。
 先頭のチェレンは空を仰いだ。
 つられてトロも見上げると、鳥人ターナが木の枝の陰に雨宿りしていた。
 身体を覆う大きな翼が黒く光っている。

「ターナ、お利口さんだ。
 夜営出来るような広い所を探してくれないか?」
 トロが言うとターナは考えている。
 チェレンが言った。
「こいつには私達がどんな所に夜営出来るか、わからないんだ。
 それより、どこかで獣が集って騒いでいる。
 何をしているか、見て来た方が面白いに決っている」
「夜営地ぐらいわかるさ」
 ターナは、ふん、馬鹿にするな、と飛立った。

「あいつはこの雨の中を飛びたくなかったのだ」
 オモンは言った。
「あいつのように枝の下に雨を避けた方がよさそうだな」
 歩みを止めず、トロは言った。
 彼は布製の服を着るチェレンやララを気遣った。
 トロとオモンは獣皮の服だ。

「・・・」
 チェレンがまた何か喋ったらしい。
 が、激しい雨の音ですぐ後のララにも聞き取れない。
「誰が危険なの?
 ターナ?
 貴方が行けと言ったのよ」
 ララの声が聞える。
 チェレンはそれに答えようとはせず、急いで歩き続けている。

 トロは危険という言葉に心配になった。
 チェレンは会った時からいつも弓と矢を二三本左手に持っていて、常に危険に備えている。
 トロはチェレンが作った多くの矢をラガーの背に積んでやった。
 今では一人で運び切れない程ある。

 ターナが戻って来た頃、森はやっとまばらになったが、それは一層激しい雨に叩きつけられるだけだった。
 トロは林の中に戻ろう、と考えていた。
 ターナが言った。
「この向うに岩だけの山があって、木の柵と小屋があってたくさんの人が居た。
 たくさんの獣とけんかしていた」
 チェレンが言った。
「ずっとトーチの狩の呼び声が聞えていた。
 そこの人々はトーチに襲われている。
 トーチは大きな集団で行動し、悪賢い獣だ」

 トロはすぐに応じた。
「どんな獣か知らんが、オモン、ラガーで駆けつけよう。
 チェレンはララとここに残って雨宿りしていてくれ」

「君達だけが何をしに行く?
 私が行かないとその人達を助ける事はできないよ」
と、言い、チェレンはトロのラガーに駆け寄った。
「私はトロの後に乗る。オモンはララを乗せてくれ」
 そしてさっさとラガーに跨がった。
 トロはそれで急き立てられてチェレンの前に乗る。
 ラガーは大きな動物だ。少しの間なら大人二人を乗せて充分走った。

四兄弟神の星 16

 四兄弟神の星 16
       第二章 チェレン、獣人の岩屋を脱出する 10


 その時、林の中から何かが勢いよく飛出して来ると、太い棒が大口を開いた頭に打落された。
 ラガーに乗ったトロだ、とオモンはすぐ気付いた。

 オモンの横で巻き取られていたチェレンが、この時、オーともワアーともつかない叫びを上げるとナイフを振りかざして、自分に巻き付く胴の皮をぐざぐざと左右に切り離した。
 三人と立木を巻いたその長い物はそれで精一杯で、新たな攻撃には大きな牙のある口だけだが、頭はトロの最初の一撃にやられていた。
 トロはラガーから下りて頭や胴を打ち続ける。
 チェレンはナイフで自分を解放すると、オモンに巻き付いている胴を切り始める。

 そいつは頭をやられ胴を切り離されても、猶、獲物を海に引き摺り込もうとしていた。
 立木に巻き付いていた尾は、この時動かない立木を離して、ララだけ連れて動き出した。
 チェレンは慌てて追い掛けた。

 オモンはチェレンのナイフで裂け目の出来た皮に指を掛け、力一杯引裂いて、自由になった。
 チェレンはララに追付いて、そいつの胴にナイフを突き立てる。
 トロとオモンも直に駆けつけ、残りの胴をやたらと殴りつけた。
 そのお陰でそいつの他の胴が飛んでチェレンに再び巻きつくのを防ぐ事が出来た。
 ララに巻き付いた胴を切り離すと、バラバラになったその各部分はそれぞれ動き始め、全て海に戻って行った。
 ただ頭だけがなかった。
 振返ると、ターナが両手に抱え込んで、切り口からついばんでいるのだった。

 トロがララを助け起こした。
 ララは一度目が覚めたものの、状況に気付いて気絶したらしい。

「よく間に合ってくれたね」
 オモンはトロに言った。
「寝場所に適当な所がなくてうろうろしていたら、火が見えた。
 すぐ着くような気がして駆けたのだが、随分あった」

 突然チェレンが大声で笑い出した。
 トロとオモンは何事かと、振返った。
 チェレンは思いっきり笑いながら、
「いや、あの海竜がラガーと立木を間違えて、引いて行こうと苦労していたのを思い出したら、おかしくって」
「?」
 気を失ったままのララを抱えて不審顔の二人を前にチェレンは、朗らかに笑い続けた。

                   第二章 了

四兄弟神の星 15

   四兄弟神の星 15
      第二章 チェレン獣人の岩屋を脱出する


 それからは、オモンは出来るだけ高みに夜営し大きな火を焚いた。
 獣人が追って来ないのなら、トロと連絡を取りたい。
 しかしトロの夜営の火もまだ見えない。

 そこは高い海崖の上の林の中で、遠くまで森を見晴せた。
 今夜はここに夜営する事にした。
 チェレンは崖の下を覗き込んだ。
「もっと、森に下りた方がいい」
「今夜あたり、トロと連絡が取れるような気がする。
 高い場所に居たい。
 森から遠いから安全だと思うが」
「この下は深い淵だ。
 こういう場所には蛇に似た海竜が潜む。
 舟で通ると長い胴で舟ごと巻き付かれ、海の底に持って行かれる。
 このぐらいの崖を這い登るのは平気だ」

 どちらが安全とも決められない。
 が、心持ち森に下がる事にした。
 木にラガーを繋ぎ、大きな火を焚く。

 先にチェレンとララが眠った。
 夜が更けて来ると、オモンは眠くて堪らなくなった。

”しかし、こいつはづっと歩き詰めで狩をしたり、矢の材料を集めていた。
 俺より疲れているに違いない。
 あまり早く替れと言うのは俺の沽券に関わる”

 ラガーが頭を上げて、辺りを見回した。
 どこかで微かな音!
 かさかさ、
 ざわざわ。

 はっとして目を凝らした時、海の方で何か高い物が星空に立上がった。
「海竜だ!」

 棍棒を握り締め、チェレンに手を掛けた。
「チェレン、起きろ!」

 その長い物はぐううっと空に伸びた。
「チェレン、ララ!」
 チェレンを無理に引き起こした時、その長い物は倒れるように、襲ってきた。

 逃げる暇も、棍棒を振るう間もなかった。
 あっと言う間にオモンとチェレンの身体は、人の身体ぐらい太く途方もなく長い物に巻き付かれてしまった。
 ざわざわと尾が地を滑って行き、ララを掬い上げ、更に、ララの身体を宙に浮かせたまま、くねくねとラガーに向った。
 ラガーは逃げようともがいて、繋がれた立木をぐるぐる廻っていた。
 長い胴はラガーを追って、その立木にしっかりと巻き付いた。

 オモンは棍棒を握り締めてはいるものの、腕を巻き取られ、どうする事もできない。
 チェレンは頭を振って、目を覚まそうとする風だった。

”化け物の餌食になるなら、眠ったままの方がいい”

 そいつの頭は牙のある大きな口と、形だけの目が一つ付いているが、殆ど見えないらしかった。
 頭を伸して、ラガーを捕まえているつもりの胴の方を見たが、よく理解できなかったらしい。
 そのままずるずると海の方に戻り始めた。
 オモンは足を踏ん張った。
 思い通りにならない事に腹を立てて、頭が引返して来て、がー、と大きな口を開いた。
 思わず足を踏み滑らせて、ずるずるずる。

 またもや、がくっと引止められる。
 そいつは立木を引いて行こうというのである。
 再び怒りの大息をついた口が開き、その木に向った。

四兄弟神の星 14

四兄弟神の星 14
     第二章 チェレン獣人の岩屋を脱出する 8


 夜営の時、チェレンは枝の代りに大きな木の実を幾つも抱えて戻って来た。
「どうして、今の間に木の実を集めておかないのだ。
 早くしないと小動物にすっかり食べられてしまう」
 チェレンは火を熾しながら言った。
 ララは楽しそうに小さなナイフで木の実を割っている。

 食事が済むとチェレンはまた言った。
「君達は先に眠って、夜中には火の番をしてくれ。
 獣が来るといけないから。
 私は矢を削って暫く起きている」

 ララは直に横になった。
 チェレンは昼間集めておいた枝をナイフで削り始めた。

 オモンは話し掛けた。
「獣人は追って来ないだろうか?」
「クスシの足は早いが長くは走れない。
 草原を越えるのに三日かかる。
 もしキコが私達の逃げた方向を教えてもね。
 他の連中は精々私が南に捜しに行ったと思っている。
 誰も何も言わなければ、クスシは、私達は、他の者達と同じ様に西に行ったと思うだろう。
 今まで逃げた者は皆、故郷の西の街を目指したから」

 チェレンは下を向いて小枝を削りながら言った。
 細く真っ直ぐにし、先を鋭く尖らせる。
 基は平たくする。
 鏃(やじり)や矢羽根はつけない。

「キコはあの連中を逃す事をすっかり諦めている。
 無気力なのだ。
 自分で諦めているから努力して抜け出そうとしない。
 希望があるとすれば、混血児は星人より寿命が短い。
 奴が死ぬか?
 自分が喰い殺されるか?
 だ。最後にキコと私が残るに違いない。
 そうなれば、海の流れを利用して東に逃げようと、話していた。
 二人なら、この東の森でもなんとか生きて行けるだろう。

 あの時、クスシはあんたを殺せと、言った。
 私は外した。
 クスシはかんかんに怒ったが、キコは、捕えておけば何時でも食べられる、今日は獲物があるではないかと、クスシに教えた。
 紳士らしく振舞う事さえ教えた。
 そうしておいて、彼は一度助けた事のあるララを獣人の牙から逃す方法を考えた。

 ララは素直で優しいだけではなく、賢い子だ。
 キコはずっとあんたを観察していた。
 それでも、一人では東の森では生きて行けない。
 私にも一緒に行くように言った。
 そうすると、後に残ったキコは一人だ。
 最後になっても最早逃げ出す事は出来ない」
 チェレンはふっと顔を上げた。
 驚くほど暗い悲し気な目があった。

 彼は直にまた俯いて、作業を続けた。
「それだけじゃない。
 私がいなくなれば、狩の獲物はクスシ一人ではどうにもならない。
 他の連中の最後の時も早くなる。
 私はもう寝るよ。
 君は眠たくなれば、ララと代って貰えばいい。
 ララはずっとラガーに乗っていた」
 オモンがはっと思うまもなくチェレンは横になり、もう眠っている。

”奴が矢を作っている間に私は眠るべきだったのだ”

 チェレンの傍らには、矢が山のように積まれている。
 夜の三分の一は過ぎてしまっていた。

Powered by FC2 Blog

FC2Ad

FC2ブログ
Copyright © 津山美江のファンタジーランド All Rights Reserved.